ベトナムの
工業団地事情
文/齊藤公
第28回 損害保険
ベトナムで製造業を行う事業者の場合、事前に損害保険に加入するのが一般的である。火災や落雷などの自然災害や賠償事故、工事中の損害を補填できるように、ベトナムにおいても多様な保険が用意されている。本稿では、ベトナムで加入できる保険の種類や手続きについてご案内したい。
保険の種類
保険会社にもよるが、事業者向けの保険の例として以下のようなサービスがある。
1)貨物海上保険
輸送中の原材料・製品等が対象になる保険。基本的な起こりうるすべてのリスクを補償する保険であるが、貿易条件によっては保険が付保されない場合もある。
2)工事保険
工事目的物や仮の設備、既存物件・工事者への賠償金など工事に関する多様なリスクに対応可能な保険。
3)賠償責任保険
事業者が保有する施設、生産した製品・サービス、株主からの損害賠償請求に対応可能な保険。支払う保険金として、判決金額や和解金等を支払う損害賠償金、訴訟の際に発生した費用や弁護士への報酬金などが対象となる。
4)自動車保険、船舶保険
工事に関して使用される自動車の所有、使用、管理に起因して生じる各種の損害を補償可能である。また、船舶保険においては、工事に従事する船舶が作業期間中に生じた損害を補償する保険である。
5)サイバー保険
近年注目度が高まっている保険。不正アクセスによる個人情報流出、データ消去による現状復旧費用、サイバー障害による利益喪失を補填してくれる。ベトナムは世界で18番目にサイバー攻撃の被害が多い国とされており、特にマルウェア攻撃件数が東南アジアで2位となっているため、サイバー攻撃に対する保険の確認はとても重要である。
また、ベトナム国内の会社で働く個人向けの保険として労災事故に対応できる労災保険、負傷や疾病に対応できる医療保険も用意されている。
手配
ベトナムでは、自国の保険産業を保護するために、外国保険会社への付保規制が為されている。そのため、事前に日本で保険を付保することができない。そのため、海外にて代理店やフロント会社を探し、契約する手法を取らなくてはいけない。以下に、代表的な手配の手法についてご紹介する。
1)日本の保険会社の子会社・代理店に付保する
日本の保険会社がベトナムに子会社を持っている場合、または現地有力代理店と契約している場合に契約を結ぶことができる。日本で付保するときと同様の保険サービスを受けることができ、また日本語対応がされている場合が多い。
2)フロンティング契約
フロンティング契約方式では、ベトナムの保険会社が保険証券を発行し、その引き受けの相当部分を優先的に再保険として日本の保険会社が引き受ける方式だ。実質的に日本の保険会社から保険サービスを受けていることになり、海外の保険会社に依頼するよりも負担が軽減されることになる。
以上のような契約方法が存在する。具体的な保険を掛けるには質問書に加え、必要な書類や保険ごとの必要書類を提出しなければならない。
手続き
手続き方法については、保険会社や保険の内容についても変化するが、以下に基本的な処理方法についてご紹介する。
1)貨物保険。
まず、保険会社に連絡を取り事故内容の報告をする。発生した損害については、保険会社の検査員の検査を受けることになるため、状況の保存及び被害の拡大を防ぐ必要がある。貨物については、内部及び外装を調査し、異常が発生していれば受け渡し書類に概略を入れる必要がある。保険会社が指定する必要書類を提出することで、保険金を請求することが可能になる。
2)賠償責任保険。
発生した段階で速やかに保険会社に通知し、事故内容について詳細な説明を行う。事件発生日時や事故の原因、負傷した人物がいる場合はその人物の住所や氏名、治療箇所、その人物からの請求内容が主な内容として必要になる。事故発生後、検査員が到着するまで現場保存及び損害拡大の防止、被害者との交渉を進めておく必要がある。その後、必要書類を提出し、請求手続きが完了する。
海外とは言え、ベトナム自体に特有の保険というものがあるわけではなく、基本的な内容は日本のものと同一と捉えてよい。しかし、言語が違うため保険内容の解釈が異なっているなどの弊害が発生する場合がある。日本の保険会社も子会社をベトナム内に設置しているなどして対応してくれている場合が多いため、事前に保険会社で相談を行い、自社に必要な保険とその内容について確認を取るべきである。
齊藤公(さいとうひろし)
Business Advisor
G.A. Consultants Vietnam Co., Ltd
大学卒業後に PHP 研究所に入社し、同社ニュー ヨーク事務所長を務めた後、中部日本放送(CBC) の関連会社で「名古屋港再開発プロジェクト」を 担当。その後拠点をアジアに移し、シンガポールで 「FM96.3」の開局や、ベトナムで「ハローベトナ ム」・「インベストアジア」の創刊を手掛け、ベトナム 最大規模のレンタル工場開発会社(BW Industrial Development JSC)で日系製造業の誘致を担当後、 現在はベトナム最古参の日系人事コンサルタント会社 「G.A. Consultants」にて、日系企業の進出コンサ ルタントとして活動。