ベトナムの

工業団地事情

文/齊藤公

第1回 工業団地の種類

ベトナムで製造業を行うには、政府が認可した工業団地の中で操業するのが一般的である。ベトナム計画投資省の最新の発表によると、ベトナム国内の工業団地は約488カ所あり、その中には日本の商社が運営する日系の工業団地や、非日系でも日本人担当者がいて、日本語で様々なサポートをしてくれる工業団地もある。本稿では日系企業が進出する際の工業団地選定のポイントや、進出して製造をスタートするまでに必要な手順・注意点等についてご案内したい。

工業団地のタイプ

工業団地のタイプは大きく次のような3タイプに分かれる:

  1. 土地分譲:工業団地の開発会社が土地をテナントに分譲し、テナントがその土地に工場を建設するというパターン。但し、土地を購入した場合でも、土地の所有権が最大で50年と定められているため、所有権の残年数を確認することが重要。
  2. レンタル:工業団地の開発会社が標準仕様のレンタル工場を建設し、それをテナントに貸し出すタイプ。レンタル契約期間は通常3年以上となっている。初期投資を抑えることができ、万が一の際も撤退が容易なため、中小企業が進出する場合はリスクが軽減できると好評。但し、天井高や床の耐荷重などが決まっているので、自社の仕様に適しているかどうかの確認が必要。海外ではレンタル工場のことを英語でRBF(Ready Built Factory)と言う。
  3. BTS (Build to Suit):一言で言えば、オーダーメイドのレンタル工場。工業団地の開発会社がテナントの要望に基づいて、自社の土地に自社費用負担で工業を建設し、その建設費用を月々のレンタル料に加算してテナントに請求するというスキームで、通常5年または10年の契約になる。

レンタル工場の標準仕様では不都合だけれど、土地を購入して自社で建設する初期投資を抑えたいという場合には、お勧めのスキームだ。

工場の規模、予算によってどのタイプが相応しいかは異なってくるが、通常は5,000㎡以上の規模の工場の場合は、土地を購入して自社で工場を建設した方が効率的だと言われている。

BWID ミーフック 3 工業団地(レンタル工場)の内装
BW Industrial Development JSC (BWID)が開発したミーフック 3 工業団地(レンタル工場)の外観
BW Industrial Development JSC(BWID)が開発したバウバン工業団地のレンタル工場
ベトナムには日本のものづくり企業が多数進出している

工業団地の開発会社は3種類

ベトナムの工業団地の開発会社は大きく分けて3種類に分かれる:

  1. ローカル資本:ベトナム資本の工業団地は当然数の上では大半を占め、土地代やレンタル代は安いが、インフラや言語対応の面で問題がある場合が多く、余りお勧めはできない。
  2. 日系資本:住友商事、双日などの日本の大手商社が投資した工業団地は、日本人の担当者がいてインフラ面でも充実しているが、土地代やレンタル料はその分高めに設定されている。
  3. 非日系外資:日系ではなくても欧米やシンガポールの外資が開発した工業団地があり、インフラ面でも問題がなく日本人の担当者を置いている所もあり、日系と比べると土地代やレンタル代が低めに設定されている。

基本的に進出する際に必要なライセンス(会社設立、投資許可、等)の申請は、工業団地の開発会社が行ってくれる場合が多いが、ローカル資本の工業団地ではベトナム語または英語でしか対応してくれない場合が多く、非常にハードルが高くなってしまう。また、進出後のトラブル(例えば工場で雨漏りがあったり、シャッターなどの設備が壊れた場合)もベトナム人対応になってしまうので、迅速な対応は期待できない。

前述のように土地を購入するのか、レンタルにするのかをまず検討し、次に日系にするのか非日系外資にするのかを検討することが第1ステップになる。

業種・ロケーション等による選択

製造業でもその業種やロケーションによって工業団地の選定基準が異なる。

  1. ハイテク産業:ダナン・ハイテクパーク、サイゴン・ハイテクパークなど、「ハイテク」の基準を満たせば、優遇税制のあるハイテクパークに入居できる。
  2. 重工業:ホーチミン市南部ではロンアン省などの地盤が弱い地域があるので、そのような地域は避けることが大切。また、レンタル工場の場合は床の耐荷重が各工業団地で異なるので、最初に確認する必要がある。レンタル工場で耐荷重が足りない場合は、追加工事も可能だが、その場合は追加で費用が掛かる。
  3. 裾野産業;メーカーに部品や資材などを供給する会社は、供給先のメーカーの工場に近い工業団地を選ぶことが、輸送コストの削減に繋がる。
  4. 輸出加工型企業:ベトナムで製造した製品を100%輸出する企業は、EPE(Export Processing Enterprise)というライセンスを取得すれば、輸出入時の関税が免除される。

但し、このライセンスの取得には、様々な条件が設定されていて取得が容易ではない。輸出加工区に認定されている工業団地に入居すれば、申請不要で関税が免除される。

このように、まずは各工業団地のバックグラウンド、サービス内容などを調べ、自社の業種や工業団地のロケーションを考慮して選定することが重要となる。

住友商事が運営するタンロン工業団地内の神奈川インダストリアルパーク(神奈川県とMOUを締結)

齊藤公(さいとうひろし)

Business Advisor
G.A. Consultants Vietnam Co., Ltd

大学卒業後に PHP 研究所に入社し、同社ニュー ヨーク事務所長を務めた後、中部日本放送(CBC) の関連会社で「名古屋港再開発プロジェクト」を 担当。その後拠点をアジアに移し、シンガポールで 「FM96.3」の開局や、ベトナムで「ハローベトナ ム」・「インベストアジア」の創刊を手掛け、ベトナム 最大規模のレンタル工場開発会社(BW Industrial Development JSC)で日系製造業の誘致を担当後、 現在はベトナム最古参の日系人事コンサルタント会社 「G.A. Consultants」にて、日系企業の進出コンサ ルタントとして活動。