ベトナムの

工業団地事情

文/齊藤公

第9回外国人の労働許可証

ベトナムで外国人が働くには、就労を認める労働許可証が必要になる。大半の日本人がこの労働許可証の取得を義務付けられているが、近年は必要な条件の厳しさから取得できないケースが増えている。本稿では労働許可証の概要、またその取得方法について紹介していきたい。

1. 労働許可証

日本人が労働許可証を取得するには、以下の書類を提出する必要がある。各企業の企業登録証明書(ERC)に記載された会社所在地を管轄する市・省の人民委員会労働局に申請しなければならない。

1)職務経歴書

2)大学卒業証明書(専門学校・短期大学においても)

3)無犯罪証明書

4)出向命令書

5)健康診断書(ベトナムでの取得が好ましい)

6)パスポートの公証版

 これ以外にも、労働許可証の種類によっては別途書類が必要になるケースもある。工業団地に入居している製造業の場合は、工業団地管理委員会に申請することになる。申請期間は、平均して2カ月、当局への申請費用は、新規に発行する場合400,000VND(約2500円)かかる。ただし、ベトナムで働く際に、労働許可証の取得が免除されるケースもある。たとえば、ベトナム人の伴侶がいる方は、労働許可証の取得が免除されている。これから労働許可証を取得する方は、自分が免除対象者かどうかの確認が重要である。

2. 労働許可証は3種類

 日本人が取得可能な労働許可証は、3種類である。

  1. 専門家:3種類の中で最も取得件数が多い。条件として、着任後の職務に関する内容を専攻し4年制大学を卒業、当該分野で3年以上の勤務経歴を有する者、または外国の機関・企業・組織が発行した専門家としての証明書を有している者。
  2. 管理者:企業登録証明書(ERC)に名前が記載されている、機関・組織のトップあるいはそこから委任を受けた者。また、定款により株主総会に参加している人物も取得可能である。ただし、いずれの場合も管理職として1年以上の経験がないと取得は難しい。
  3. 技術者:当該分野での3年以上の技術経験、大学・短大に3年以上所属していた証明書が必要になる。専門性のある資格を持っていると大学・短大の卒業証明書の代わりになる場合もあるので、確認が重要。

3. 近年の労働許可証取得事情

新型コロナウイルスが蔓延する以前と比較して、日本人がベトナムでの労働許可証を取得する難易度はかなり上がっている。困難になった要因は、大きく2点挙げられる。

1. 外国人の雇用の厳格化

 ベトナム政府は、自国民の雇用を増進させるため、最初からベトナム以外の国から人材を採用することを認めなくなった。まず初めにベトナム人に対し求人を出し、その上で候補者がいない場合に外国人から採用するという手順を踏まなくてはならなくなったのである。求人についても、張り紙やポスター、求人サイトへの登録など、企業は求人活動の証拠を示さなくてはならない。

2. 学部と職務の不一致

 ベトナムでは、大学の学部と職務内容が一致しているかの審査が極めて厳格である。ベトナムへの日本人進出をサポートしているコンサルタントの話では、早稲田大学の法学部を卒業し、銀行に勤めていた男性がベトナムへ出向する際に、学部と職務内容の不一致から労働許可証を取得できなかったという例もある。経済学部など、該当する職業が広範な場合は比較的取得しやすいが、文学部などは取得が容易ではない。ベトナムでは大学で学んだことをそのまま職業に反映させるという考えが根強い。こういった文化の違いにより、外国人は苦戦を強いられている。

労働許可証(Work Permit)見本

4. 労働許可証を取るには

最も適当な解決策は、ベトナムで働く際に、本人が卒業した学部と関連づいた役職名を付ける方法である。たとえば、大学の文学部で英米文学を専攻していた人物ならば、欧州企業への担当者といった具合である。これにより、未然にトラブルを回避することが可能だ。本社からベトナムへ出向する社員ならば、事前に企業と打ち合わせを行い。肩書に手を加えることもある。但し、大手企業では役職名の変更が難しくなる場合もあり、事前の相談は入念にすべきである。

 まずは取得する際に必要な書類を集める、自身が免除対象者かの確認をするなどして、申請がスムーズに行えるように準備しなければならない。以前は担当者へのコミッションなどが横行していたが、現在はすっかりと鳴りを潜め、厳格な審査・手順を踏まなければならなくなった。通常申請してから2カ月、申請前のベトナム人に対する求人の手順を踏まえると3カ月弱かかり、手順も煩雑になっている。そのため、自社で全ての手続きを進めるのは容易ではないため、申請代行業者に委託する企業が多い。

齊藤公(さいとうひろし)

Business Advisor
G.A. Consultants Vietnam Co., Ltd

大学卒業後に PHP 研究所に入社し、同社ニュー ヨーク事務所長を務めた後、中部日本放送(CBC) の関連会社で「名古屋港再開発プロジェクト」を 担当。その後拠点をアジアに移し、シンガポールで 「FM96.3」の開局や、ベトナムで「ハローベトナ ム」・「インベストアジア」の創刊を手掛け、ベトナム 最大規模のレンタル工場開発会社(BW Industrial Development JSC)で日系製造業の誘致を担当後、 現在はベトナム最古参の日系人事コンサルタント会社 「G.A. Consultants」にて、日系企業の進出コンサ ルタントとして活動。