ベトナムの

工業団地事情

文/齊藤公

第15回 FDI(外国直接投資)受け入れに熱心な省 ビンズオン(Binh Duong)省

製造業がベトナムに進出する際に、どの地域の工業団地を選択するかは重要なポイントとなるが、地域を挙げてFDIの受け入れに熱心に取り組んでいる省があるので、その例をいくつかご紹介したい。今回はベトナム東南部のビンズオン省の状況をご紹介する。

1. ロケーション/面積/人口:

ビンズオン省はベトナム南部のホーチミン市の真北に位置し、サイゴン川とドンナイ川に挟まれた三角状の地理を形成しており、省都はトゥーザウモット市である。面積は約2,7000㎢で、人口は約245万人。南部はホーチミン市、東部はドンナイ省に接している。ホーチミン市中心部から国道13号線を北へ1時間弱車で走ればビンズオン省に入る。

ビンズオン省の地図

2. ビンズオン省の工業団地:

現在ビンズオン省内にはミーフック(My Phuoc)工業団地、ベトナム・シンガ ポール工業団地(VSIP)を始めとする33の工業団地が存在し、ドンナイ省と 並び、ベトナム南部の製造業の2大拠点となっている。

BW IndustrialのMy Phuoc 3工業団地の写真

3. ビンズオン省政府としての取り組み:

ビンズオン省は海外企業誘致に積極的な地域であり、ホーチミン市を中心と した南部主要経済圏の主な省の一つで、製造業を始めとした多くの日系企業が 投資を行っている。

 ビンズオン省政府はスマートシティのプロジェクトを立ち上げ、21世紀の地 域経済とグローバル経済の新しい価値を目指し、人と知識を焦点として、国内 外のリソースを集めることを目指している。

既にこのプロジェクトはビンズオ ン省の社会経済的発展に大きく貢献しており、国際関係の拡大、投資パートナ ーの誘致、国際舞台でのビンズオン省の地位の向上に貢献している。 

このスマートシティプロジェクトには東急株式会社やNTTグループ(NTT e- Asia)といった日本の大手企業も参画し、住宅や交通インフラの整備、通信環境の整備等に大きく貢献し、スマートシティの礎たるインフラの整備に寄与している。

4. ビンズオン省に進出している日系製造業:

ビンズオン省に進出している主な日系製造業としては、クボタ、キン グジム(My Phuoc 3)、ヤクルト、ヨコハマタイヤ(VSIP 1)、キューピー、 プラス(VSIP 2)、ジェネレーション・パス(Bau Bang)などの各業界を代表 する大手企業が名を連ねている。

5. ドビンズオン省の住宅事情:

東急株式会社とベトナム政府系の不動産開発会社「ベカメックスIDC」により2012年3月に設立した「ベカメックス東急」が、外国人居住者やベトナム人富裕層を主なターゲットにした分譲マンションや戸建てなどを建設し、同省の工業団地に通う多くの日本人駐在員が、同社の運営するサービスアパートメントに居住している。特にビンズオン新都市にある「SORA gardensⅠ& Ⅱ」は、建物1階に日系のコンビニや日本食レストランなどがあり、隣接するショッピングセンターにはユニクロやニトリもあり、日本人駐在員に好評だ。

SORA gardensⅠ&Ⅱ・SORA gardens SC
SORA gardensⅠ&Ⅱ・SORA gardens SC

6. ビンズオン省のレストラン事情:

現在ビンズオン省には数十店舗の日本食レストランが進出し、ホーチミン市の人気店である「わか葉」、「杏」、「赤太陽」や、チェーン店である「すき家」や「丸亀うどん」を始め、接待にも使える本格的な日本料理の「十五夜迎賓館」、蕎麦専門店でクオリティが高い「叶庵克」など、バラエティに富んだ日本食が楽しめる。
また、日本人がオーナーでベトナム全土で大人気の「ピザ・フォーピース」などの西洋料理の人気店や、省内にあるイオンモールやHikari商業エリアに各国料理が楽しめるレストランやフードコートもあり、外食産業が充実している。

ビンズオン省のPizza 4P's Hikari
ビンズオン省のPizza 4P's

7. まとめ:

ビンズオン省は工業団地の開発のみならず、前述のように省政府と東急やNTTを始めとする民間企業が強力なタッグを組んで、スマートシティを目指した総合的な開発を進めており、いわば未来都市の先駆けと言える。同省は地盤の固い地域であるため、ホーチミン市南部のメコンデルタに近い省のように地盤沈下の心配はなく、台風や地震のような自然災害も滅多に起きず、標高も高いため浸水などの水害のリスクも少ない。
また駐在員向けの住居や、バラエティに富んだハイクオリティの日本食レストランや洋食レストラン、イオンモールなどの日本人駐在員にとっての生活環境も整っている。更にこの地域のベトナム人は温厚な性格の人が多く、ワーカー同士の争いや労働争議などは、他の地域に比べて比較的少ない。年中温暖な気候もあり、質の良い労働者が集まりやすく、毎年3~5%の労度人口が増加しているので、製造業の進出にはかなり整った環境と言えるのではないか。

齊藤公(さいとうひろし)

Business Advisor
G.A. Consultants Vietnam Co., Ltd

大学卒業後に PHP 研究所に入社し、同社ニュー ヨーク事務所長を務めた後、中部日本放送(CBC) の関連会社で「名古屋港再開発プロジェクト」を 担当。その後拠点をアジアに移し、シンガポールで 「FM96.3」の開局や、ベトナムで「ハローベトナ ム」・「インベストアジア」の創刊を手掛け、ベトナム 最大規模のレンタル工場開発会社(BW Industrial Development JSC)で日系製造業の誘致を担当後、 現在はベトナム最古参の日系人事コンサルタント会社 「G.A. Consultants」にて、日系企業の進出コンサ ルタントとして活動。