ベトナムの

工業団地事情

文/齊藤公

第10回駐在員の生活環境

ベトナムに進出する際に心配になるのは、駐在員が快適に生活できる環境が整っているかどうかということである。筆者はベトナム生活17年になるが、初めてベトナムに来た時にはイオンモールも高島屋も日本のコンビニもなく、日本の食品や衣服を買い出しにシンガポールまで行っていた。しかし今や隔世の感があり、イオンモールが6店舗(北部3店舗、南部3店舗)、高島屋はホーチミンに1店舗、日系のコンビニに至ってはファミリーマート、ミニストップ、セブンイレブンが南部に進出し、合計数百店舗を構えている。今回は日本から赴任する駐在員の生活環境に関してご紹介したい。

1. 住居

  1. サービスアパートメント:日本人駐在員の方々が住まれるのは、掃除やクリーニングのサービスがついているサービスアパートメントが一般的である。ハノイ、ホーチミン、ダナンなどの大都市には数多くのサービスアパートメントがあるが、工業団地のあるような郊外では余り選択の余地がない。しかしながら、工業団地が数多くある南部のビンズン省では、東急株式会社とベトナムのディベロッパーBECAMEX IDC CORP.の合弁によって誕生したべカメックス東急がビンズン新都市の街づくりを行っており、同社直営のサービスアパートメントがある。すでに日系テナントが集積するショッピングセンターや飲食店、コンビニ、医療機関の他、東急バスの運行もあり、郊外でも便利に生活できる環境が整いつつある。ベトナムにはスターツやレオパレス21を始め、多くの日系の不動産会社が進出しているので、日本に居ながらにして現地の住宅情報を得ることも可能である。

  2. アパート:掃除などのサービスがついていないアパートも数多くあり、サービスアパートよりは若干賃料が割安になる。
  3. ルーム・フォー・レント:1軒屋の各部屋を貸し出すスタイルで、ホーチミン市の日本人街の一角にこのタイプの部屋が数多くあり、そこに住んでいる日本人の単身赴任者が少なからずいる。トイレとシャワールームは各部屋についている場合が多いので、単身であれば問題ない。

    ★住居選びは通勤時間のことも考慮して、慎重に行わなければならない。ハノイ・ホーチミンなどの大都市に住みたがる駐在員が多いが、片道1時間半以上かかる場合は、工場近くに住居を探すことをお勧めする。但し、ベトナム人で会計士の資格を持った人や管理職候補の人は大都市に住んでいる場合が多いので、日本人の責任者と車をシェアして通勤してもらうなどの工夫が必要になる。

べカメックス東急が運営するサービスアパートメントSORA gardensⅠ・SORA gardensⅡとショッピングセンターSORA gardens SC
ホーチミン中心部1区に店舗を構える高島屋
日本人の居住率が9割を超えるホーチミン市にあるサイゴンスカイガーデン

2. 食事

  1. 日本食レストラン:ベトナム国内には2,500店舗程の日本食レストランがあり、その約6割が南部(ホーチミン周辺)、約3割が北部(ハノイ周辺)にあり、クオリティもかなり向上しているので、日本人でも十分に満足できるお店が増えている。
  2. 日本食のスーパー:イオンモール内のスーパーマーケットのみならず、日本食料品の専門店もあり、日系のコンビニにも日本の食材があるので、価格は割高になるがそんなに不自由はない。しかしながら焼酎や日本酒は酒税の関係で日本の価格の3倍前後の値段になるので、日本に一時帰国した際に購入する駐在員が多い。
  3. 衣服:ハノイ・ホーチミンの2大都市には、イオンモールやユニクロが出店しているので、そんなに不自由はない。また、スーツなどはオーダーメイドでも日本と比較すると割安で作れるので、お勧めである。
  4. 病院:ハノイ・ホーチミンには日本人医師が常駐する病院・クリニックが複数あるので、安心である。但し医療設備の問題で、大掛かりな手術が必要な場合はタイやシンガポールの病院に搬送される場合もある。医療保険に関しては、日本で加入する海外旅行傷害保険もあるが、現地で加入できる保険もある。
  5. 交通:公共交通機関が発達していないベトナムでは、駐在員の移動手段は主に社用車かタクシーになる。グラブなどのバイクタクシーもあるが、安全上の問題で利用を禁止している日系企業も多い。バイクがメインの交通手段であるベトナムでは、自分で車を運転すると加害者になるリスクがあるので、運転手付きのレンタカーを利用している駐在員が多い。
  6. 通信:ベトナムでは無料で利用できるWifiが、ハノイ・ホーチミン・ダナンといった大都市では街中のカフェ・レストランなど多くの場所で利用できるので、不自由はない。
  7. 娯楽:ゴルフ場はベトナム国内に数多くあり、南部ビンズン省などの工業団地の近くにもある。料金は日本と比べると少し割安ではあるが、ベトナムの物価から考えるとかなりの高額になり、富裕層の娯楽と考えられている。テニスコートやスポーツクラブなどは大都市には数多くあり、サービスアパート内に併設されているところも多い。その他マッサージ、カラオケ、バーなどは町中にも工業団地周辺の郊外にも多く見かけられ、日本人駐在員の息抜きの場となっている。ハノイやホーチミンでは各都道府県の「県人会」や「異業種交流会」も数多くあり、定期的に食事会やゴルフコンペなどを開催している。
ベトナムで多店舗展開を図る「すき家」
定期的に開催されている愛知県人会

齊藤公(さいとうひろし)

Business Advisor
G.A. Consultants Vietnam Co., Ltd

大学卒業後に PHP 研究所に入社し、同社ニュー ヨーク事務所長を務めた後、中部日本放送(CBC) の関連会社で「名古屋港再開発プロジェクト」を 担当。その後拠点をアジアに移し、シンガポールで 「FM96.3」の開局や、ベトナムで「ハローベトナ ム」・「インベストアジア」の創刊を手掛け、ベトナム 最大規模のレンタル工場開発会社(BW Industrial Development JSC)で日系製造業の誘致を担当後、 現在はベトナム最古参の日系人事コンサルタント会社 「G.A. Consultants」にて、日系企業の進出コンサ ルタントとして活動。