ベトナムの
工業団地事情
文/齊藤公
第12回 レンタルできる設備・機材
企業にとって、ベトナムに進出する上での初期費用は重要な検討事項である。近年では、ベトナムにおいても工場、そして今回ご紹介する設備・機材のレンタルを専門に行っている会社が増えている。レンタルすることで初期費用を抑えられ、維持管理に割く手間も省け、ベトナム進出の際に便利なのだ。今回は、レンタル可能な設備、ベトナムでのレンタル設備事情についてご案内したい。
1. レンタル設備・機材の種類
最短で1日、長期になると数年間借りることができる。以下に、主要なレンタル設備を紹介する。
1)フォークリフト:免許が不要なハンドパレットからエンジン式のフォークリフトまで、レンタル可能。運搬が必要な製造業者は数多くあるため、特に需要が高い。
2)高所作業車:大型の機械は維持管理費が嵩み、管理の手間もかかるため、購入するよりもレンタルをするほうが企業にとっても楽になる。車両以外にも、高所での作業が可能なシサーズリフトのレンタルを行っている場合もある.
3)発電機:近年ではベトナム国内での電力不足により、需要が増加している。ベトナム北部で5、6月の2カ月間における計画停電の影響で、損失額が32兆2,000億VND(約1950億円)以上と推定された。これは、ベトナムの年間国内総生産(GDP)の0.3%に相当する。北部の電気を間に合わせるために、南部やベトナム国外から発電機を集めるケースも度々発生した。
この他にも、運搬用のピックアップ車、人や機械を冷やすクーラーなど、様々な機材のレンタルが可能である。数十種類レンタルしている企業や、専門にしている機材のみをレンタルする企業があるため、事前に確認する必要がある。ただ、日本と比較すると機材の種類はまだまだ少ない状況である。
2. レンタルの料金について
機材や設備について、種類によってはレンタルを行った方が機材を買い切るよりも安く済む場合がある。機材を購入する場合、レンタル費用こそかからないが、初期費用が高く、更にそこにメンテナンス費用、修理費用が追加されるため、結果的に高額化してしまうケースが大半である。一方で、レンタルの場合は毎年レンタル費用がかかるが、その分機材を購入する場合と比較して初期費用が安く済む。また、レンタル業者によっては自社でメンテナンスサービスを行っている場合もあり、コストを削減することが可能だ。特に月に一度、年に数回使う程度の機材については、レンタルの方がお得である。
中小規模の企業の場合は、まずレンタルの機材を借り入れ、実績を積み経営が軌道に乗ってから機材購入に踏み切る場合もある。また、購入した機材を点検する数日間だけ機材をレンタルするということも可能だ。中・長期的な観点から、合計のコストではどちらの方が安く済むのかを判断することが重要だ。
3. 近年のレンタル設備事情
先ほど述べた通り、現在はレンタル機材・設備が整っている点から、初期費用を抑えやすくなっているため、中小規模の企業のベトナム進出が増加している。しかし、文化の違いから、機材のレンタルによるトラブルが発生することもある。以下の2点は、トラブルとして度々発生している事例である。
1) 定期点検への認識の違い
日本で行われる定期点検は故障の予防という側面が大きい。一方で、ベトナムでは使用している機材が壊れたら修理してもらうという発想が多い。メンテナンスで長く使えるという考えはあまり定着しておらず、故障の予防という意識が希薄である。ベトナム系のレンタル会社の中には、メンテナンスを実施していない企業も多い。そのため、点検をせずに、重大な故障が発生、修理費がかかる場合がある。また、機材の扱いについても雑な場合が多く、機材を故障させ、修理費の請求といったトラブルに発展することもある。近年はメンテナンスについて少しずつ認知されてきているが、いまだに故障するまで放置されていることが大半である。日頃から機材の扱いについては認識を統一させ、教育を徹底しておくことで、こういったトラブルを未然に防ぐことができる。
2) 担当者の連絡不足
機材レンタルを行っている会社の方の話によると、ある担当者に機材メンテナンスの日付を教えていたのだが、その人物が他の担当者と情報共有をしておらず、当日メンテナンスができず、トラブルに発展したという事例がある。社員同士の連絡不足によるトラブルは日本と比べてもかなり多いため、ベトナムの担当者向けに、報連相を緊密に行うように教育しなければならない。
3) レンタル機材のメンテナンス不足
レンタルする機材には、メンテナンスが十分にされていない場合がある。納品後、即オーバーヒートしてしまうような不良が発生するケースも報告されている。更に、悪質な場合だと外見のみ新品で、エンジンやモーターは中国製にされている場合もあるため、外見のみではなく、内面の注意も必要である。
自社でのメンテナンスが可能な企業はごく少数であり、ほとんどの場合メンテナンスや交換部品代、修理代を計算に入れずに初期費用のみで購入するケースが多い。。まずは先々まで見据え、レンタルか購入かを検討し、費用を抑えられる選択をすべきである。また、点検やメンテナンスについて、ベトナムではその概念自体の認知度が低い。そのため、機材や設備に対する考えを統一させておくことが必要となる。
齊藤公(さいとうひろし)
Business Advisor
G.A. Consultants Vietnam Co., Ltd
大学卒業後に PHP 研究所に入社し、同社ニュー ヨーク事務所長を務めた後、中部日本放送(CBC) の関連会社で「名古屋港再開発プロジェクト」を 担当。その後拠点をアジアに移し、シンガポールで 「FM96.3」の開局や、ベトナムで「ハローベトナ ム」・「インベストアジア」の創刊を手掛け、ベトナム 最大規模のレンタル工場開発会社(BW Industrial Development JSC)で日系製造業の誘致を担当後、 現在はベトナム最古参の日系人事コンサルタント会社 「G.A. Consultants」にて、日系企業の進出コンサ ルタントとして活動。