ベトナムの

工業団地事情

文/齊藤公

第14回 FDI(外国直接投資)受け入れに熱心な省 _ドンナイ(Dong Nai)省

製造業がベトナムに進出する際に、どの地域の工業団地を選択するかは重要なポイントとなるが、地域を挙げてFDIの受け入れに熱心に取り組んでいる省があるので、その例をいくつかご紹介したい。今回はベトナム東南部のドンナイ省の状況をご紹介する。

1. ロケーション/面積/人口:

ドンナイ省はベトナム南部のホーチミン市の東北に位置し、東はビントゥアン省、南はホーチミン市とバリア・ブンタウ省、北はラムドン省とビンズオン省に接している。省都のビエンホア市は120万人以上の人口。面積は約5,900㎢で、人口は約320万人。東西ハイウェイの開通により、ホーチミン市からのアクセスが良く、ホーチミン市内からもほとんどの工業団地に車で1時間前後で行ける。

赤い部分がドンナイ省
赤い部分がドンナイ省

2. ドンナイ省の工業団地:

現在ドンナイ省内にはニョンチャック1~6(Nhon Trach 1~6)工業団地、ロン ドウック(Long Duc)工業団地、アマタシティ・ビエンホア(Amata City Bien Hoa)工業団地、ロテコ(Loteco)工業団地、など37の工業団地が存在し、ビンズ オン省と並びベトナム南部の製造業の2大拠点となっている。

Nhon Trach 3工業団地内JSCのレンタル工場
Nhon Trach 3工業団地内JSCのレンタル工場
JSCのメインゲート
JSCのメインゲート

3. ドンナイ省政府としての取り組み:

ドンナイ省は2023年に国内で最も国家収入が高かった地方のトップ10入りを果たし、その金額は58兆VNDを超えた。ホーチミン市を中心とした南部主要経済圏の主な省の一つであり、政府レベルで日本とも様々な経済協力を行っている。

2023 年9月、省の人民委員会はドンナイ省における、サイゴン通信技術株式会社とのグリーン成長協力に関する覚書に署名する会議を開催し、党中央委員会委員や省党委員会書記のグエン・ホン・リン氏が立ち会った。今回の署名では、ドンナイ省のグリーン成長目標として2050年までに炭素排出量実質ゼロを達成することを掲げ、これらの実施に成果を残すことを目的としている。省人民委員会によると、このグリーン成長目標は2021年のCOP26 気候変動サミットでファム・ミン・チン首相が発表したベトナム全土の目標に等しく、これを実現するために2050年までの期間を対象に気候変動に関する国家戦略を策定し、あらゆる主要分野でのこれからのビジョンや目標等の概要が述べられている。

インフラ設備の面でも期待が大きい。2023年末、省人民委員会は2015年から建設が進められているロンタイン空港周辺地域を発展させるための会議を開催し、党中央委員会委員や省党委員会書記のグエン・ホン・リン氏や国内外から多数の企業が出席した。今後地域・国際ハブ空港として多くの期待が寄せられる新空港は、タンソンニャット空港の混雑を緩和するだけでなく、周辺の高速道路等のインフラ設備を発達させることで、さらなる工業団地の建設や企業誘致等の可能性も大いに見込めるだろう。2024年3月初めには、Nguyen Duc Hai国会副議長をはじめとする国会監査チームによって、省人民委員会の2023年末までの数多の重要国家プロジェクトに関する決議等実施状況について監査が行われた。省人民委員会によると、ベトナム空港公社(ACV)の代表者は、ロンタイン国際空港プロジェクトの進行状況等を監査チームに報告し、スケジュール通りの進捗で順調であると述べた。同空港は遅くとも2026年9月頃までに第一フェーズの主要設備の建設等を完了するよう努めている。

ロンタイン国際空港完成予想図
ロンタイン国際空港完成予想図

4. ドンナイ省に進出している日系製造業:

ドンナイ省に進出している主な日系製造業としては、資生堂、トンボ、花 王、ブラザー(Amata City Bien Hoa)、リクシル、テルモ(Long Duc)、 プラス、YKK(Nhon Trach 3)などビッグネームが目白押しだ。

5. ドンナイ省の住宅事情:

2013年に日本のODAによって東西ハイウェイが一部完成したことにより、ホーチミン市内から工業団地のある地区まで1時間前後で通勤できるようになり、ドンナイ省の工業団地に勤務しているほとんどの日本人はホーチミン市内に居住している。

6. ドンナイ省のレストラン事情:

ニョンチャック3工業団地のJSC(レンタル工場区画)の管理棟内に、「KOME Japanese Restaurant」というホーチミン市の日本人街にもある日本食レストランが出店しており、同工業団地以外の工業団地の従業員も利用している。

KOME Japanese Restaurantの店内
KOME Japanese Restaurantの店内

7. 総括:

ドンナイ省はホーチミン市からの通勤圏内に位置し、前述のように省政府が日系企業を誘致するために積極的な対策を推進しており、ベトナム進出に関するサポート体制が充実している。また、ロンタン国際空港の建設工事が進められており、将来的なこの空港の開港を見込んで、多くの日系企業が進出を検討している。

ドンナイ省は地盤が固いこともあり、工場建設においてコスト削減や工期短縮が期待できるため、同省の工業団地に入居している企業は鉄鋼業やプラント、重設備を扱う企業も多い。

ホーチミン市からの通勤が可能なため、日本人駐在員の通勤が容易で、ベトナム人の会計業務や総務担当、通訳などの事務系スタッフの採用も、他の地区と比べると容易である。

齊藤公(さいとうひろし)

Business Advisor
G.A. Consultants Vietnam Co., Ltd

大学卒業後に PHP 研究所に入社し、同社ニュー ヨーク事務所長を務めた後、中部日本放送(CBC) の関連会社で「名古屋港再開発プロジェクト」を 担当。その後拠点をアジアに移し、シンガポールで 「FM96.3」の開局や、ベトナムで「ハローベトナ ム」・「インベストアジア」の創刊を手掛け、ベトナム 最大規模のレンタル工場開発会社(BW Industrial Development JSC)で日系製造業の誘致を担当後、 現在はベトナム最古参の日系人事コンサルタント会社 「G.A. Consultants」にて、日系企業の進出コンサ ルタントとして活動。