ベトナムの
工業団地事情
文/齊藤公
第20回 BTS (Build-to-Suite)について
製造業がベトナムに進出する際には、通常は工業団地の土地を購入して自社工場を建設するか、レンタル工場に入居するという方法が一般的だが、今回はオーダーメイドのレンタル工場(倉庫)という新しいコンセプトのBTS(Build-to-Suit)についてご案内したい。
1. BTSとは:
土地所有者(工業団地開発業者)が借手(テナント)の要求に従って不動産物件(倉庫・工場)を建設することに同意する商業用不動産リースの一種である。BTSでは開発業者がテナントの物件の建設費用を全て負担し、建設完了後に土地代と建設費を合算した費用を、テナントが10年~20年のリース契約で開発業者に分割払いするというスキーム。
テナントは通常BTSのリース契約満了後に、リースを延長するオプションを持つ。また、BTSのリース期間中に物件を買い取ることも可能。
2. BTSの利点:
<テナント側>
1. カスタム仕様:テナントは物件のサイズ・外観・レイアウトなどに至るまで、全てテナントの要求通りの仕様で物件の建設ができる。
2. テナントの初期費用の削減:土地代と建設費用を一旦開発業者が全て立て替えるため、先行投資が少なくて済む。
3. 税制上の優遇措置:月々のリース料の支払いは、テナントの事業経費として100%税金控除の対象となる。
<開発業者側>
- 物件の建設前からテナントが決まっている。
★レンタル工場・倉庫を建設してもテナントが入らないというリスクはない。
3. BTSに適した業態:
<倉庫使用の場合>
1. フランチャイズ業態:ファストフード、薬局チェーンなど
2. Eコマース:
3. ショッピングセンター
<工場使用の場合>
- レンタル工場では仕様が合わない製造業(天井高、床の耐荷重、他)
- 大規模(1ha以上)の工場で初期投資費用が10億円を超える場合。
4. BTSのリース期間とデポジットについて:
1. 決定の要素:
- 建物のスペック:特殊な仕様の場合は次のテナントが見つかりにくいので
リース期間が長くなる。(10年以上)
- ロケーション:市内に近いなど便利な場所だと次のテナントが見つかりや
すいので、短いリース期間でも問題ない。(Shopeeの例)
2. デポジットの例:
- リース期間が短い場合(3~5年):6ヶ月分賃料相当のデポジット
- リース期間が長い場合(10年以上):1年分の賃料相当のデポジット
5. BTSの注意点:
<開発業者側>
★テナントの財務状況の精査が必要。:BTSのリース期間途中でテナントが経営
破綻した場合は、残金の回収が不可能になるリスクがある。
6. 日系企業にとってのBTSのメリット:
1. 円安状況が続く現状では、海外投資を外貨建てで行うには経費負担が大きいが、BTSを利用すれば長期の分割払いが可能になり、円安の影響が少なくて済む。
2. 現地での創業後に業績が良ければ土地と建物を買い取ることも可能になり、海外投資のリスク軽減が可能になる。
3. ベトナムにおける土地取得と工場・倉庫の建設は、ライセンス申請等の手続きが煩雑で容易ではないが、BTSを活用すれば、開発業者がその手続きを代行してくれるので、スムーズに申請ができ早期の操業が可能になる。
齊藤公(さいとうひろし)
Business Advisor
G.A. Consultants Vietnam Co., Ltd
大学卒業後に PHP 研究所に入社し、同社ニュー ヨーク事務所長を務めた後、中部日本放送(CBC) の関連会社で「名古屋港再開発プロジェクト」を 担当。その後拠点をアジアに移し、シンガポールで 「FM96.3」の開局や、ベトナムで「ハローベトナ ム」・「インベストアジア」の創刊を手掛け、ベトナム 最大規模のレンタル工場開発会社(BW Industrial Development JSC)で日系製造業の誘致を担当後、 現在はベトナム最古参の日系人事コンサルタント会社 「G.A. Consultants」にて、日系企業の進出コンサ ルタントとして活動。