ベトナムの

工業団地事情

文/齊藤公

第4回 人材募集とその確保

ベトナムで生産活動をスタートする場合は、多くのワーカーや日本語または英語ができる管理部門のスタッフを採用する必要がある。ベトナムも人件費が年々上昇してはいるが、中国の3分の1、タイの2分の1くらいなので、まだまだ製造業にとってはメリットがある。本稿ではベトナムでワーカーや管理部門のスタッフを採用する方法、また採用の際の注意点、そして採用したスタッフをいかにキープするかについてご紹介したい。

1. ワーカーの採用方法

  1. 工場のフェンスに垂れ幕を掲げる:多くの工業団地で見かけられるのは、写真のように工場の周りのフェンスに募集要項を記載した垂れ幕を掲げる方法である。この垂れ幕を見た他の工場のワーカーが口コミで噂を広めてくれるので、意外に効果が高い。但し、近隣の工場の賃金とかけ離れた高い賃金の設定は、周りの工場から反発を買う恐れがあるので、ある程度近隣の工場のワーカーの賃金を調べた上で、賃金設定をした方が無難である。
  2. ウェブでの募集:ワーカー専門の人材募集ウェブサイトがあるので、そこに募集要項を掲載する方法。但し、これはベトナム語のウェブサイトになるので、管理部門のベトナム人スタッフを採用しなければ、掲載が困難である。
  3. 人材紹介会社の利用:ベトナムには日系の人材紹介会社が30社以上あるが、ワーカーの採用に強い会社もあるので、上記の方法で上手くいかない場合は、有料にはなるがお勧めである.。

2.管理部門のスタッフ(マネージャー、通訳、経理、総務)の採用方法

管理部門のスタッフは日本人の工場長と直接コミュニケーションを取る必要があるので、日本語または英語がある程度できないと務まらないが、そのような人材は人材紹介会社に依頼しなければ採用は困難である。またそのような外国語人材は都心(ハノイ、ホーチミン市内)に居住している場合が多いので、彼らの通勤手段を確保する必要がある。日本人責任者と同じ車で都心から通勤したり、通勤用のバンやバスを用意している会社も多い。

ベトナム人(ワーカー及び管理部門のスタッフ)の採用で実績のある会社を、下記に数社ご紹介する:

  • G.A. Consultants Vietnam Co., Ltd.: https://www.vieclambank.com
  • Kosaido HR Vietnam Co., Ltd.: www.kosaido-hr.com
  • Reeracoen Vietnam Co., Ltd.: www.reeracoen.com.vn
  • Ryobi Vietnam Co., Ltd.: www.ryoubi-vn.com
Website https://www.vieclambank.com

3.採用の際の注意点

1) ワーカーの場合:面接の際に「なぜ、転職を決意して当社を選んだのか?」を確認 する必要がある。「給与、自宅からの距離(通勤時間)、社内の人間関係、会社に対する不満」などが考えられるが、同じことが自社でも起きるかもしれないので、転職理由がリーズナブルかどうかを判断することは重要。また、最近多くみられるのが、日本で技能実習生として雇用した社員を、ベトナムで新規に工場を設立した際に、現地の工場で再雇用するケースであるが、この場合は日本時代の給与と現地での給与に格差があるため、それを不満に思ってすぐに辞めてしまう社員も多いので、技術を習得して即戦力になるような社員には、それなりの給与を支給する必要がある。

2) 管理部門のスタッフの場合:日本語人材の場合は日本語検定試験でN2以上の取得者が望ましいが、N3でも日常会話は問題ない場合もあるので、面接時に雑談をしてどの程度会話が成り立つかで判断した方が良い。英語人材の場合は、採用する日本人の英語力の問題もあるので、やはり自分とどれだけコミュニケーションが取れるかを、採用面接時に十分に確認する必要がある。日本語通訳兼社長秘書として日本語人材を採用する場合も多いが、その場合はその人物の人柄を見極めないと、社長の威を借りてその人物が権力を持って独断で判断する場合もあるので、業者の選定などには注意が必要である。ベトナムにおいては多かれ少なかれリベートをもらう悪しき慣習が残っているので、業者選定の際には社長秘書や購買部門の責任者に任せきりにせずに、少なくとも相見積もりを取って、自分で確認しなければならない。

4.採用したスタッフをキープする方法

1) ワーカー:毎日会社が支給するランチのクオリティで隣の工場に転職してしまう場合もあるので、ランチのクオリティは近隣の工場と比較して落としてはならない。 言葉は通じなくても、通訳を通して日頃のコミュニケーションを取る必要がある。ワーカーの誕生日にメッセージを添えて、何かプレゼントを渡すのも効果的である。会社に余裕ができたら、社員旅行で近隣のリゾートに全社員を連れて行く会社も多い。しかしながらワーカーレベルの離職率は高いので、すぐに補填できる手段を確保しておくことがより重要である。

ワーカー募集用の垂れ幕

2) 管理部門のスタッフ:上記のワーカー同様日頃からのコミュニケーションが大事になるが、ベトナム人は仕事よりも家族が大事なので、スタッフの両親の誕生日を聞いておいて、その日に両親にプレゼントを渡しておくと、本人が退職したくても両親が許してくれず、退職を思いとどまる場合もあるようだ。また、通訳(または秘書)を通じて、他のスタッフの状況を日頃からモニタリングしておくことが重要である。ワーカーも管理部門のスタッフも同じ人間なので、「ベトナム人だから・・・」といった先入観で相手を見下す態度を取らないことが最も重要である。また、言葉が通じないということで、会社が休みの日にも通訳を呼び出している社長をたまに見かけるが、これは公私混同なので慎んでほしい。「現地の言葉も話せない日本人がベトナムで仕事ができていること自体が有難い。」という考えがないと、ベトナム人に対して横柄な態度を取ってしまう人も少なからずいるので、これだけは控えてほしい。

齊藤公(さいとうひろし)

Business Advisor
G.A. Consultants Vietnam Co., Ltd

大学卒業後に PHP 研究所に入社し、同社ニュー ヨーク事務所長を務めた後、中部日本放送(CBC) の関連会社で「名古屋港再開発プロジェクト」を 担当。その後拠点をアジアに移し、シンガポールで 「FM96.3」の開局や、ベトナムで「ハローベトナ ム」・「インベストアジア」の創刊を手掛け、ベトナム 最大規模のレンタル工場開発会社(BW Industrial Development JSC)で日系製造業の誘致を担当後、 現在はベトナム最古参の日系人事コンサルタント会社 「G.A. Consultants」にて、日系企業の進出コンサ ルタントとして活動。