ベトナムの

工業団地事情

文/齊藤公

第7回 工場のセキュリティ (警備体制)

ベトナムで工場や倉庫を運営する上で重要なのが、 セキュリティ (警備) 対策である。 外部からの不審者の侵入を防ぎ、 工場内の機材や製品の盗難を防ぐために、しっかり とした対策を取っていないと痛い目に合ってしまう。 殺傷事件などの凶悪犯罪は比較的 少なく治安の良いベトナムではあるが、 盗難・窃盗などの軽犯罪は決して少なくない。 特に最近のコロナ禍の影響で工場から解雇された従業員も多く、 恨みに思って夜間に 工場に侵入して製品を持ち去ろうとする輩もいるようだ。 今回はベトナムにおける工場 のセキュリティ (警備体制)についてご案内したい。

1. ベトナムならではの特殊事情

経済発展が続き、 ハノイやホーチミン といった大都市では高層ビルが立ち並び、 日本の地方都市よりはよほど便利で発展 しているように見えるベトナムではある が、古くからの悪しき慣習である賄賂や 癒着がまだまだ蔓延っているのが現状である。

SECOMのセキュリティーシステム。 緊急時にスムーズな駆けつけを実現する

 工場の購買担当者と納入業者との 癒着は当たり前の世界で、 購買担当者が 業者からコミッションをもらっているケー スも多い。 従って機材や材料の発注はも ちろんであるが、 工場の制服や文房具な どの発注をする場合も、 購買担当者に任 せっきりにするのではなく、必ず複数の 業者に毎回見積もりを取って確認した上 で発注することが重要である。

VSIPハイズン内 BWIDレンタル工場のゲート横警備員詰 め所

以前当地ベトナムの日本人工場長に聞いた話では、 入社5年の購買担当のベトナム人を営 業課長に抜擢して、 給料を1.5倍にする (US$400からUSD600 に昇給) という話 をしたら、 本人が辞退したとのこと。つま り昇給のUS$200よりもリベートの方が額 がはるかに大きいようだ。

2. 工業団地としての 警備体制

これは各工業団地によってまちまちで あるが、 レンタル工場を運営している工 業団地の場合は、敷地全体をフェンスで 囲って、ゲート付近に常駐の警備員を配 置し、 敷地への出入りを管理している場 合が多い。 工場のワーカーを始めとする 従業員にはカードを発行し、 それを提示 すれば入場を認めているが、 業者などの 第三者が敷地に入る場合には、事前に警 備員に届け出をするか、 ゲートで警備員 が各テナントに確認を取った上で入場を 許可している。 もちろん、 通常はゲート に監視カメラが設置されている。 しかし ながら、レンタル工場の場合でも、各テ ナントの工場の警備に関しては、テナン ト側で手配をしなければならないので、 警備員を常駐させる人的警備と、 オンラ インや監視カメラ等の機械警備、または このミックスで対応しなければならない。

3. 工場の人的警備

ベトナムには ALSOK や SECOM といっ 日本の大手の警備会社が進出していて、 よく訓練された警備員を派遣してくれる ので安心だ。 工場の従業員がローカルの 警備会社の警備員と結託して、日中に出 荷を装って自社製品を持ち出し転売する という事件も起きているので、警備員を 雇っているからと言って必ずしも安全と は限らない。 日本人の責任者が毎日警備 員に声を掛けて、コミュニケーションを 取っておくことも必要だ。

4. オンライン機械警備

各種防犯センサーを設置し、 セキュリ ティ会社の監視センターで24時間、365 日遠隔監視をし、 異常警報発生時にセキュ リティ会社のスタッフが駆けつけるシス テムである。 夜間や休日の無人状態の時 のセキュリティ対策として有効である。 こ ちらのシステムは上記の日系セキュリティ 会社以外でも、 ローカルのセキュリティ 会社でも取り扱っているところがあるの で、各社のシステムの内容や費用を比較 検討して、 自社の工場の規模に合ったシ ステムを選ぶことをお勧めする。

5. 監視カメラ・出入管理システム

こちらは何か事件やトラブルが発生した場合の証拠を押さえるために必要となるので、 最低限備えておきたいものであ る。

ALSOKの警備員

上述の工場からの備品や製品の盗難 事件が発生した場合には、 決定的な証拠 を得ることができる。 監視カメラはなるべ く死角が発生しないよう、 その取付位置 と設置台数もセキュリティ会社と相談し て、慎重に決定しなけければならない。 また、EPE (輸出加工企業) として関税 免除の優遇措置を受けるためには、工場 内に当局からの指示 (設置位置、及び設置 台数) に基づいた監視カメラの設置が不可 欠である。

6. 総括

当地ベトナムにおいては、 残念ながら まだまだワーカーレベルの従業員のモラ ルが低い場合が多いので、よく働いてま じめな社員であっても、 魔が差して上記 のような窃盗事件を起こさないとも限ら ないということを頭に入れておく必要があ る。 また、 セキュリティ会社の担当者に、 過去にどのようなトラブルがあったかの 具体的な事例を聞いて、それを防ぐため にはどのようなシステムが有効なのかを 判断することも重要である。

齊藤公(さいとうひろし)

Business Advisor
G.A. Consultants Vietnam Co., Ltd

大学卒業後に PHP 研究所に入社し、同社ニュー ヨーク事務所長を務めた後、中部日本放送(CBC) の関連会社で「名古屋港再開発プロジェクト」を 担当。その後拠点をアジアに移し、シンガポールで 「FM96.3」の開局や、ベトナムで「ハローベトナ ム」・「インベストアジア」の創刊を手掛け、ベトナム 最大規模のレンタル工場開発会社(BW Industrial Development JSC)で日系製造業の誘致を担当後、 現在はベトナム最古参の日系人事コンサルタント会社 「G.A. Consultants」にて、日系企業の進出コンサ ルタントとして活動。