ベトナムの
工業団地事情
文/齊藤公
第8回 輸出加工企業 (EPE) に対する 優遇措置
輸出加工企業 (Export Processing Enterprises EPE) とは、 「輸出加工区内で 設立され、 操業している企業」 または 「工業団地内または経済区内で操業し、 製品す べてを輸出する企業」 を指す。 最近では輸出製造企業 (Export Manufacturing En terprises EME) という新たなカテゴリーも新設され、 それぞれ税制面での優遇措置 が受けられる。 今回はEPEあるいはEMEとして認定された企業が受けられる税制優遇 措置についてご案内したい。
1. 法人税
現在、 EPEという条件での法人税の優 遇措置は撤廃されている。 ベトナムは従 来、 EPEに対して法人税の優遇 (10%、 15年間)をはじめ、 関税やVAT(付加価値 税)の免除といった優遇措置を与えてき たが、2007年のWTO加盟に伴い、国内 外資本の格差をなくす目的で、 2012年1 月1日以降、 EPEの法人税の優遇措置は 撤廃された。 法人税は2016年1月1日以 降、 20% (ハイテク分野や僻地への投資 など一部を除く)に設定されている。
2. 輸出入関税および付加価値 税 (VAT)
EPEは税法上、 外国企業とみなされる ため、EPE施設とベトナム領土内との物 品の移動にも通関手続きが必要。 また、 保税工場の扱いを受けるため、 EPEが次に該当する物品を輸出入する場合で、保 税工場の扱いを受けられれば、 輸出入関 税およびVATが免除される。
1) 輸出関税の免税対象
a. EPE、輸出加工区および保税倉庫 から輸出された物品
b. ベトナム領土内の別のEPEまたは 輸出加工区および保税倉庫に対し て販売した物品
2) 輸入関税および VATの免税対象
c. EPEでの使用、 あるいは輸出向け製 品の生産のために輸入された物品
d. 製品加工を目的にベトナム国内の 企業から購入した供給物資、 原材 料、仕掛品
e. EPE、 輸出加工区、 保税倉庫に輸 入された物品
f. ベトナム領土内の別のEPEまたは輸 出加工区・保税倉庫から購入した物 品
g. EPEが国内企業からサービス、 建設、 取り付け工事を受ける際のVAT
3. その他のメリット
1) スムーズな通関
国外からEPE向けに輸入される商品、 またEPEから国外へ輸出される商品は、 違反の兆候がある場合を除き、 実体検査 を免除され、 通常税関報告手続き終了後、 即刻通関される。 なお、 EPEが次に該当 する取引を行う場合、通関手続きは不要。
a. 同一輸出加工区内での、 EPE間の 売買取引
b. 異なる輸出加工区でのEPE間の売 買取引で、 当該取引先がグループ 会社である場合、 通関手続きの有 無が選択できる。
EPEとEMEの違いについて
※1:条件によりVATの返金/控除が可能。
※2:EMEの輸出関税について、 鉱物等の一部輸出品は課税対象となる。
2)275日ルール (繰り延べ)の制限なし
EPEには、輸出品の生産に使用する輸 入原料の使用期限、 国外への製品輸出期 限がない。 EPE以外の企業には、 輸出品 生産のための原料輸入時、 申告登録日か 275日以内に完成した製品を国外へ輸 出しない場合は、 輸入税の納税義務があ る (275日ルール、 繰り延べ)
3) VAT申告の簡素化
EPEは毎月VAT申告を行う必要がない。先ごろ新たにEME (Exporting Manuf- acturing Enterprises) というカテゴリー が新設され、 EPEよりは取得しやすいよ うなので、上記の比較表を参照して頂き たい。
EPEまたはEME 企業は上述のような メリットを享受できるが、 将来的にベト ナムでの国内販売を考えている企業には 余りお勧めできない。 EPE/EMEから非 EPE/EMEにステイタスを変更すること は法律上は可能であるが、 現実的にはそ のような手続きを取ったケースはほとん どないようだ。 その理由はステイタスの 変更をする際に、 税関による調査のため 長期に渡って生産停止を求められる可能 性が高いからである。
EPEもEMEも申請手続きが煩雑なた め、専門のエージェントに申請手続きを 委託することをお勧めする。
EMEを適用する手順
齊藤公(さいとうひろし)
Business Advisor
G.A. Consultants Vietnam Co., Ltd
大学卒業後に PHP 研究所に入社し、同社ニュー ヨーク事務所長を務めた後、中部日本放送(CBC) の関連会社で「名古屋港再開発プロジェクト」を 担当。その後拠点をアジアに移し、シンガポールで 「FM96.3」の開局や、ベトナムで「ハローベトナ ム」・「インベストアジア」の創刊を手掛け、ベトナム 最大規模のレンタル工場開発会社(BW Industrial Development JSC)で日系製造業の誘致を担当後、 現在はベトナム最古参の日系人事コンサルタント会社 「G.A. Consultants」にて、日系企業の進出コンサ ルタントとして活動。