ベトナムの

工業団地事情

文/齊藤公

第31回 中小製造業のベトナム進出における落とし穴

日本の中小の製造業がベトナムに進出する切っ掛けとして、日本の工場で数年間働いてくれた実習生や技術者が、任期を終えて本国に戻るのを機に、そのベトナム人スタッフの帰国後の職場を提供するためにベトナムに工場進出するというケースが多い。

その場合に注意しなければならないのは、日本で実習生や技術者として働いていたスタッフを、ベトナム現地法人の責任者にしてしまう事例が多いことだ。日本いる間は会社の方針に従って勤勉に働いてくれたベトナム人スタッフに情が移って、そのスタッフを責任者に任命してしまう例が多いが、そこに大きな落とし穴がある:

1. 彼らは会社を経営した経験がない:工場での作業に関しては問題なくこなすことができても、会社経営の経験がないので、コスト管理・社員の管理・業者との折衝などができず、無駄なコストが発生してしまうリスクが高い。

2. 彼らの地元に工場を設立すべきではない:ベトナム人スタッフの地元に工場を設立すると、自分の親戚・縁者を社員として採用したり、知り合いの業者と結託してバックマージンをもらったりする不正の温床が発生しやすい環境を与えてしまう。

解決策

  1. 少なくとも現地法人設立後の最初の1~2年は、日本人社員の出向者を責任者に任命して、業者との契約などは必ず数社から相見積もりを取って比較検討し、業者を決定することが必要。もし、自社から日本人出向者を送り込めない場合は、ベトナムで工場管理の経験のある日本人スタッフを現地採用するという方法もある。
  2. 特に購買部門のスタッフが不正を働く場合が多いので、定期的にスタッフを部署移動させたり、業者の再選定をするというチェック機能を持つことが大事。
  3. 工場の設立場所は、ベトナム人スタッフの地元は避けるべき。

日本の中小製造業のオーナーは性善説に立って考える方が多いが、ベトナム人が地元に戻ると悪い取り巻きが悪知恵を授けることが多く、本人は当初は不正を働く気はなくても、流されてしまう人が多いので、余り人に入れ込むのは危険である。

齊藤公(さいとうひろし)

Business Advisor
G.A. Consultants Vietnam Co., Ltd

大学卒業後に PHP 研究所に入社し、同社ニュー ヨーク事務所長を務めた後、中部日本放送(CBC) の関連会社で「名古屋港再開発プロジェクト」を 担当。その後拠点をアジアに移し、シンガポールで 「FM96.3」の開局や、ベトナムで「ハローベトナ ム」・「インベストアジア」の創刊を手掛け、ベトナム 最大規模のレンタル工場開発会社(BW Industrial Development JSC)で日系製造業の誘致を担当後、 現在はベトナム最古参の日系人事コンサルタント会社 「G.A. Consultants」にて、日系企業の進出コンサ ルタントとして活動。